藍師・染師BUAISOUが表現する青いミッキーマウス

日本を代表する色彩とも言われる藍。徳島県の吉野川流域は、江戸時代から阿波藍の産地として知られ、藍師と呼ばれる職人が藍染の染料である、蒅（すくも）を作り、日本の染織文化を支えてきた。この藍のふるさと、徳島県上板町を拠点に活動する藍師・染師BUAISOUは、 伝統に新風を吹き込み、世界に向けて日本の藍を発信している。今回UTでは、ディズニーとユニクロの夢あるクリエイティブなコラボレーション「マジック フォー オール」の一環として、藍染によるブルーの濃淡でミッキーマウスを表現した。BUAISOUがミッキーマウスにのせて世界に届ける藍染の魅力。

商品ラインナップはこちら

一つの色を追求する藍染文化のかっこよさ

藍染は、世界中に伝わる天然染色の一種で、藍の栽培・収穫という農作業にはじまり、染料となる蒅作り、藍建て、染色…という工程を経て完成する。日本の藍染文化では䊾作りまでを行う藍師と、䊾で藍を建て染めを行う染師として分業制で営まれてきた。その全工程をゼロから自分たちで行う職人がいる。それが徳島県上板町を拠点に活動する藍染集団「BUAISOU」だ。
BUAISOUの発起人の一人であり、代表の楮覚郎（かじ・かくお）さんは、東京造形大学でテキスタイルデザインを専攻、独自に天然染料を研究していた。たいていの草木染めは山で染料となる植物を採取し、煮出して染めるのが基本だが、藍だけは種から栽培し、刈り取って染料を作るところから始まる。「染料のために農業をし、一年かけて染料を作るという文化に興味があったのと、単純に青が好きなのもありました」。これが藍に魅せられたきっかけだ。
「藍を作る藍師と藍染めをする染師は別々の職人です。藍だけに専念して、一つの色を突き詰めることがかっこいいなと思いました。かつて雪積もる冬空の下、藍染め職人が川で糸を洗いぎゅっと絞る姿を捉えた写真をみて、寒そうなのに素手で力強く作業する様が印象的だったのと、白い雪と藍のコントラストの美しさに感動したのも記憶に残っていて」
まずは産地に赴き藍を触りたいという思いから、徳島の地域おこし協力隊の募集を知り、藍の知識も藍がどんな工程で作られるかもほとんど知らないままこの世界に飛び込んだ。
「徳島では藍染は特別なものでなく、日常に溶け込んでいて当たり前のもののような感覚でした。徳島の人は藍染めイコール草木染めという意識もなく、ただ徳島の文化として刷り込まれている。それ自体がすごく僕にとっては新鮮で感動的でした。僕の地元の青森にはないし、東京でも草木染めすら知らない人も多い。もし徳島で生まれていたら、幼い頃から藍が身近にあったんだなと思うと羨ましい」
草木染めには触れてきた楮さんだったが、徳島の地で藍作りの現場に入って一通りの作業を体験した結果、とうてい一人ではできないということをすぐに思い知らされる。
「最初は勉強する目的だったので最高の環境だと思い、後に自分でも始めるつもりでした。町内の藍師さんのところにも蒅作りを習いに行きましたが、農作業をしながら染料作り、染色、デザイン、縫製、製品を作るなんて、一人では絶対に無理。あまりにもやることが多すぎて、だから分業という結果になっているのだと理解しました」
それでも全て一貫して行いたいという思いで、協力隊で一緒になった仲間とBUAISOUを立ち上げる。ここに来る前は東京で始めることも、別の場所も考えたが、徳島を選んだのは、吉野川沿いの水や土壌の違い、気候といった風土に加え、本場で発信することのプレッシャーが逆に原動力になると思ったからだ。

立派な蒅を作り、美しく染めること。
BUAISOUの挑戦の始まり

「周囲の人はみんな無理だといい、藍染作家さんにも染料は仕入れて染色に専念したほうがいいとアドバイスされました。それが悔しかったんです。若さもあったから、そんなわけない、絶対にできると。だから藍師のような立派な蒅を作って、すごく美しく染めることを、まずは目標にしました。現在そこに到達できているかは分かりませんが、自分たちで完結させるという第一の目標は達成できました。今はどれだけ精度を上げていくかを心掛けています」
藍染というと伝統工芸の枠で捉えられがちだが、BUAISOUは、アートやファッションといった、これまでの概念を覆す違う文脈でアプローチしてきた。とはいえ、まだ若いBUAISOUがどのように海外にまでその名を知られるようになったのか。
「もともと海外の人々や若い世代に着てもらいたいという思いからスタートしています。もし徳島で生まれ育っていたら伝統工芸という考え方になっていたかもしれませんが、僕らは県外から来たよそ者だったので、伝統に縛られることなく自由にやることができました」と振り返る。最初はあれこれ言われもしたが、それでも我が道を進んでいく。そこで追い風となったのがマネージャー西本京子さんとの出会いだった。BUAISOUの作っているものの素晴らしさは、徳島にとどまらず、もっと海外に発信すべきと考えた西本さんが、ニューヨークでのワークショップを実現させた。
その縁で日本で会社を立ち上げると同時に、ニューヨークにも拠点を作ったのが一番大きな出来事だった。そのおかげで海外からの認知度も上がり、他の都市からのワークショップの依頼も次第に増えていった。「海外では伝統工芸の立場を借りて活動しています。見た人は伝統工芸として捉えていると思いますが、自分たちの藍染めは伝統工芸のつもりはありません。日本の藍染めの技術を使って、今欲しいものを作る。それが世界により浸透しやすかったのかなと思います」

天然素材にこだわり、伝統工芸よりも極めるために

土作りに始まり、藍を育て、蒅を作り、染色、縫製まで自分たちで完結させる。全てが関連し合っているが、一連の作業の中でもっとも鍵となるのが、藍の栽培から収穫するまでにどれだけ除草するかだという。それが収穫量を決め、一年分の染料となり、仕事を左右する結果につながっていく。この農作業にもBUAISOUの徹底したこだわりがある。
「伝統工芸よりもっと極めるつもりでやっています。例えば、今の伝統工芸として作られている蒅の藍は化学肥料、殺虫剤、防虫剤などを使い、現代に合わせた農法で育てています。それを否定するつもりはありません。でも、本当の意味での伝統工芸とは何だろうと疑問に思うようになりました。だから僕らは現代の農業に合わせず、無農薬で作りたいし、肥料も動物性から植物性に切り替えました。大事なのは、どうやって作った色かをきちんと説明できること。ただきれいな色を求めるだけなら、行き詰まってしまっていたでしょう。色というのは、単体で見るとどれもきれいな色であり、隣の色との組み合わせや比較によって判断されます。言い換えれば、どんな色でもきれいと言える。僕らにとっては、どのように生み出された色なのかのほうが重要で、薬品を使用したり、労力をかけずに作った色だとしたら、あまり魅力を感じません。結局自分たちがやっていることは、色の追求というか、色を作る感覚であり、物質的には厚みも重さもない、ただの色という儚さが面白いんです。絵の具や染料を買って、描いたり染めるだけでは得られない、究極の自己満足の世界ですが、ただそれだけいろんなことにこだわって作っているという事実を伝えられればいいなと思います」
BUAISOUのやっていることは、材料だけを見たら昔よりも昔っぽく、時代を逆行しているかもしれない。だが、それだけでは新しいものを生み出すことはできない。
「僕たちの蒅作りは、ふすま（小麦の糠）を菌の栄養として使い、貝灰、木灰と蒅だけで藍染めができるのが魅力です。でも染色のときは、ステンレス槽も使います。それには大きいものや広幅の生地を染めたいからという理由があります。昔は甕しかなかったので、ある一定の大きさが限界でしたが、僕たちの工房では、一気に3mぐらいの長さの生地も染められる。また道具を使うことで、一定のスピードで水平にも染められるし、ゆっくり液に浸けられるので、きれいなグラデーションが表現しやすくなりました。新たなチャレンジを可能にするために、新しい技法や道具を取り入れることはよくあります」

ミッキーマウスを藍染で表現する意味

これまでワークショップや数々のコラボレーションを通じて、世界にBUAISOUの藍染を発信してきた。「マジックフォーオール」コレクションでは、世界中で時代を超えて愛されているミッキーマウスという人気のキャラクターを藍染で表現し、そのアートワークがプリントとして再現されている。
「ミッキーマウスを藍染で表現する意味を見出し、どのように結びつけていくかを考えました。そのために、まずミッキーマウスの歴史を調べるところからスタートします。例えば、天然藍から化学染料に変わった年代とミッキーマウスが生まれた年代を比較したり、ミッキーマウスが誕生した当時の世の中の人々のファッションなど、藍との接点を徹底的にリサーチしました。初代ミッキーマウスのアニメーションには蒸気船が登場しますが、船はBUAISOUのアイコンでもある縄モチーフともリンクするし、海も空も青く、セーラーやバンダナも関連してくる。そうやってストーリーを組み立てていきます。ミッキーマウスというお題がなかったら考えることもなかったので、とても楽しい時間でした。さまざまなミッキーマウスのモチーフを最適な藍染技法で描き、それがプリントとして再現されることが嬉しいです」
デザインの中には、青い手をしたミッキーマウスがいるが、これは藍染職人のアイデンティティでもある青く染まった手を表現している。また、バンダナ柄にもブランドのアイコンでもある縄モチーフを取り入れ、藍建から発酵を待ち、糊をおいて染めて完成という藍染めの一連の工程を描き、ミッキーマウスを藍染職人になぞらえた。
「ミッキーマウスが好きで買ってくれる人に藍を感じてもらうことが、このコラボレーションの一番のテーマです。普段藍染めで作品を作るときは、ムラをなくしてきれいにすることを目指しますが、今回は手作業だから出せる味のようなものを残しています。ただきれいなミッキーマウスを表現したら、単にミッキーマウスの青いプリントになってしまいますから。そこには僕たちがやる意味を込めました。より多くの世界中のディズニーファンに日本の藍を知ってもらうきっかけになればと思います」

BUAISOUの藍色の素となる染料、蒅作り

藍染をする際、タデ藍と呼ばれる植物の葉を乾燥させ、さらに発酵・熟成させて堆肥状にした蒅を染料として使用する。タデ藍の栽培は藍師にとって過酷な農作業であり、1年の藍染の材料を生み出す大事な作業でもある。
※藍師によって異なります。



畑仕事は1年を通して行われる。冬に土づくり、春に種まきし、苗を育てたのち、畑に定着させる。4～6月は除草と水やりの日々が続く。7～9月の刈り取りでは、収穫した藍を葉と枝に選別する（こなし）。選別後、乾燥させるという作業を繰り返し、2番、3番刈りを行う。10～2月の約120日間、寝床と呼ばれる土間のある空間で寝かせ、7日ごとに水を打って湿らせながら、山を切り崩し、また積み上げるという作業を繰り返しながらじっくり発酵させる（切り返し）。


寝床が天井までいっぱいになるほどの量が、発酵が進むにつれ、最終的には1/2程度の量になる。水を与えることで酵素が活性化して、中の温度は60〜70℃にまで上昇する。
一回の藍建に、32kg（1.5俵）くらい使用する。藍液もすべて天然材料にこだわり、蒅とふすま（小麦の糠）、木灰汁（あく）、貝灰のみで発酵させる。
仕込んだら使い方次第だが、大体4〜6カ月程度使える。

Tシャツのプリントに再現されたBUAISOU流の藍染技法

プリントの元になっているデザインを、どのように藍染で表現したのか。
BUAISOUの藍染の技法とその工程を紹介する。
※染師によって異なります。

【型染め】
デザインデータをもとにカッターを用い、手作業で切り出した型紙を使って、布の上に餅粉と米糠が原料の型糊を置く。乾燥させてから、糊が溶けないように染め重ねる。糊を置いた部分が染まらずに白いまま残る。染める前に霧吹きで濡らすことでムラなく染まる。藍液の発酵の状態によっても色や染まり方が異なるため、その都度調整が必要。グラデーションを表現するためにゆっくりと浸ける速度と浸け具合、回数を調整しながら染める。染めた後、まずぬるま湯で擦らず揺らしながら洗い、水で２回洗って糊を落とす。染め液がアルカリ性であるため、お酢を混ぜた水に浸けて中和させ色を定着させる。さらに水洗いして流水に一晩中浸け、脱水して干す。染めは一回でも、後処理は3日間行うのがBUAISOUでは基本。最後に、呉汁（ごじる）という大豆粉末を水で溶いたうわずみ液に20分ほど浸け、タンパク質でコーティングをすることで、さらに色が定着し落ちにくくなる。





【抜染】
ベースの藍に対して色を抜く技法。染めた生地の上にシルクスクリーン（もしくは型紙）を当てて色を抜きたい部分に塩素を含む糊を置き、自然乾燥後、20分ほど蒸す。糊を置くときの強さや糊の厚みが色の抜け方に関係するため、できるだけ輪郭に滲みがでないように、地の色と糊の配合、力加減などベストなバランスを探る。蒸した後は水洗いして糊をよく落とす。シルクスクリーンを使用できるため、バンダナなど細かな柄や小さい文字などのデザインの再現が可能。



【絞り染め】
世界各地で行われている原始的な染色技法で、生地を縛ったり、結んだり、縫ったりしてから染めると、絞った部分が染まらずに模様になる。しわの作り具合や、握る力の加減で模様の出方が変わる。今回は毛細血管のような細かい柄を自然な滲み具合で表現するため、緩く持ち、生地全体を濡らして均等に液が入るように工夫した。

BUAISOU Team’s Favorite Designs

Tokushima Locals in the Collection